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こいをこいするひと
恋を恋する人
国木田 独歩
「中央公論」1907(明治40)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,195 字 · 17 页
三
」
お正は、そっと大友の顔を見上げた。大友は月影に霞む流れの末を見つめていた。
それから二人は暫時く無言で歩いていると先へ行った川村の連中が、がやがやと騒ぎながら帰って来たので、一緒に連れ立って宿に帰った。其後三四日大友は滞留していたけれどお正には最早、彼の事に就いては一言も言わず、お給仕ごとに楽しく四方山の話をして、大友は帰京したのである。
爾来、四年、大友の恋の傷は癒え、恋人の姿は彼の心から消え去せて了ったけれども、お正には如何かして今一度、縁あらば会いたいものだと願っていたのである。
そして来て見ると、兼ねて期したる事とは言え、さてお正は既にいないので、大いに失望した上に、お正の身の上の不幸を箱根細工の店で聞かされたので、不快に堪えず、流れを泝って渓の奥まで一人で散歩して見たが少しも面白くない、気は塞ぐ一方であるから、宿に帰って、少し夕飯には時刻が早いが、酒を命じた。
三
大友は、「用があるなら呼ぶから。」と女中をしりぞけて独酌で種々の事を考えながら淋しく飲んでいると宿の娘が「これをお客様が」と差出したのは封紙のない手紙である、大友は不審に思い、開き見ると、