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こいをこいするひと
恋を恋する人
国木田 独歩
「中央公論」1907(明治40)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,195 字 · 17 页
朝田はこの時既に座敷から廻って縁先に来た。
「オイ朝田、春子さんがこの石を妙だろうと言うが君は何と思う。」
「頗る妙と思うねエ」
「ね朝田様、妙でしょう。」と少女はにこにこ。
「そうですとも、大いに妙です。神崎工学士、君は昨夕酔払って春子様をつかまえてお得意の講義をしていたが忘れたか。」
「ねエ朝田様! その時、神崎様が巻煙草の灰を掌にのせて、この灰が貴女には妙と見えませんかと聞くから、私は何でもないというと、だから貴女は駄目だ、凡そ宇宙の物、森羅万象、妙ならざるはなく、石も木もこの灰とても面白からざるはなし、それを左様思わないのは科学の神に帰依しないのだからだ、とか何とか、難事しい事をべらべら何時までも言うんですもの。私、眠くなって了ったわ、だからアーメンと言ったら、貴下怒っちゃったじゃアありませんか。ねエ朝田様。」
「そうですとも、だからその石は頗る妙、大いに面白しと言うんですねエ。」
「神崎様、昨夕の敵打ちよ!」
「たしかに打たれました。けれど春子様、朝田は何時も静粛で酒も何にも呑まないで、少しも理窟を申しませんからお互に幸福ですよ。」
「否、お二人とも随分理窟ばかり言うわ。