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こいをこいするひと
恋を恋する人
国木田 独歩
「中央公論」1907(明治40)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,195 字 · 17 页
毎晩毎晩、酔っては討論会を初めますわ!」
甲乙は噴飯して、申し合したように湯衣に着かえて浴場に逃げだして了った。
少女は神崎の捨てた石を拾って、百日紅の樹に倚りかかって、西の山の端に沈む夕日を眺めながら小声で唱歌をうたっている。
又た少女の室では父と思しき品格よき四十二三の紳士が、この宿の若主人を相手に囲碁に夢中で、石事件の騒ぎなどは一切知らないでパチパチやって御座る。そして神崎、朝田の二人が浴室へ行くと間もなく十八九の愛嬌のある娘が囲碁の室に来て、
「家兄さん、小田原の姉様が参りました。」と淑かに通ずる。これを聞いて若主人は顔を上げて、やや不安の色で。
「よろしい、今ゆく。」
「急用なら中止しましょう」と紳士は一寸手を休める。
「何に関いません、急用という程の事じゃアないんです。」と若主人は直ぐ盤を見つめて、石を下しつつ、
「今の妹の姉にお正というのがいたのを御存じでしょう。」
「そうでした、覚えています。可愛らしい佳い娘さんでした。」と紳士も打ちながら答える。
「そのお正がこの春国府津へ嫁いたのです。」
「それはお目出度い。」
「ところが余りお目出度くないんでしてな。