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おそろしきさくご

恐ろしき錯誤

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1923(大正12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页

青空文庫

現場に働いている人達も、死にもの狂いで奮闘している際ではあり、誰れも、妙子の妙な動作には気附かなかったらしいんだが、そうしている内に、どこからともなく、一人の男が現われて、妙子の側へ近寄って行った相だ」

北川氏はこういって、凝然と相手の目に見入ったのだった。それがどんなに対手を怖わがらせるかということを意識しながら、彼は、暗い洞穴の中からじいっと獲物を狙っている蛇の様な目つきで、野本氏を見つめたのだった。

「その男は、妙子の側まで行ったかと思うと、フッと廻れ右をして、元来た方へ走り去って了った相だが、すると、どうした事か、妙子は非常に驚いて、一杯に見開いた目で、救いを求める様にあたりを見廻した。が、それも瞬間で、アッと思う間に、一面の火になっていた家の中へ飛び込んで了ったというのだ。……その男は、それからどうなったか、まさか、その不思議な女が焼死のうとも思わなかったので、混雑にまぎれてその後の様子を見届けなかったと云った相だ。そして、それが、翌日焼跡から掘り出された越野の友達の細君だったと聞くと、その男は、そんなことなら、あの時すぐ御知らせするのだった、残念をしたといって悔みを述べた相だ。