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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

気がついたら、こんなところに寝ていたというのであった。

「その怪漢の顔とか、服装には記憶がありませんか」

「咄嗟の出来ごとで、何も分らないそうだ。背後から組みついたので、顔も見えないというのだよ」

そのときジュリアは目をパッチリ明いて、もう大丈夫だから、竜宮劇場の出場に間に合うよう帰りたい。西一郎を呼んでくれるようにと云った。

「ああ、西一郎。彼はどこへ行ったんです」

「一郎君が見えないネ。――」

と不審をうっているところへ、扉が明いて、彼がヌッと入って来た。

「オイ君はこの騒ぎの中、どこにいたのだい」

と課長は目を光らせていった。

「ちょっと外へ出て、畠を見ていたのです。都会人はこんなときでなければ、野菜の生えているところなんか見られませんよ」と云ったけれど、何だかわざとらしい弁解のように聞えた。

ジュリアは西の声を聞くと、一層帰りたがった。そこで西の外に検事が附添って帰ることになり、大江山課長と蝋山教授は残ることになった。丁度警察から差し廻しの自動車が来ていたので、三人は直ぐ東京へ出発することが出来た。

「どうも西という男は曲者だて」と、蝋山教授は頭を大きく左右へ振った。