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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
萩野は別に何の教養もない男であったが、胆の据った、判断の好い男であった。池田は自分の仲間とより、萩野とは親しく暮していた。
「隣りの山を見に行くんですかね」
萩野は見張りに来るとすぐ訊ねた。
「やりはじめたって言うから、見に行こうじゃないか。三田が場所は知ってるのかね」
「三田の兄弟が二三日前に見たって言うんで連れて来たんですが、下らないものだって言う話ですぜ」
「まあいいや、行ってみよう」
池田は大きな麦稈帽子を冠って外に出た。
外には午少し過ぎの強い日の光りが、息も吐けないほど漲っていた。その烈しい光りを全身に浴びると、まだ酒に爛れている池田の神経は、ズキズキと痛んだ。けれども彼は、無理に棒切れを振って山を馳け下りた。
山裾の通洞の前には、裸になった坑夫や、選鉱の女達が、地面に腹をつけ洞の奥から来る煙臭い風に吹かれて寝ころんでいた。
隣りの山に行くには、深い沢を一つ越さなければならなかった。其処には身の丈けほども高い茅や薄が茂っていた。足下のジクジクと湿けた大地は、湯のように温くなって、ぐんなりとした草の葉が吐く生温いいきれが、息苦しいほど立てこめていた。