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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
五
村の娘を相手にして、少しばかりの酒を飲んで、夜風に吹かれて帰って来た時には、石山はもう寝てしまっていた。池田はホッと安心したような、好い機会を失ったのを惜しむような妙な気持ちになっていた。
明る朝、何時ものように現場に出かける時、池田は、
「これでもう済みかなあ」と沼田に言った。
「すみさ、どうせ奴等のするこたあこんなものよ」と沼田はうそぶいていた。
期待していたほどにもなく済む事のために、自分の生活を動揺させられるのは、随分馬鹿らしいことだと思った。けれどもそれと共に、このことが、何か長い退屈を忘れさせてくれたとも思っていた。そして彼は現場に出ると、何時ものように真暗な坑内を歩いたり、帳面をつけたりしていた。
萩野は彼の顔を見ると、
「別に騒ぎにもなりませんでしたか」と、嬉し相に言っていた。
五
二三日経ってから、池田は東京にいる母親から、鉱主に呼ばれて、お前の不品行を散々聞かされた。年とった母親に、もう余り心配させてくれるな――と、クドクドと書いた手紙を受取った。
けれども彼は、下の茶屋へ出掛けて行って、村の娘にからかうことは止めなかった。休みの日に当直をした時には、坑夫と一緒に酔っ払って、飯場や長屋を騒ぎ廻って歩いていたが、石山も阿部も報告をしなくなったとみえて、鉱主からは再び何とも言って来なかった。