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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
彼等が二三十間も下ったかと思う頃、「モシモシ」と呼ぶ者があった。池田は振り返えってみると、追いかけて来た別の坑夫が、
「今わしの山の現場の衆が来て、一寸あなたに会いたいって言うから、来ておくんなさい」と言った。
池田は、用があるなら自分で来るが好いと思った。けれども、何か言い出せば又うるさいと思ったので彼は黙ってその男の後について行った。
旧坑の上には、身体にそぐわない洋服を着た若い男が立っていた。池田の顔を見ると、妙に肩を聳やかして、
「私は今度この山の事務員になった阿久津という者です」
と、手に持った名刺を出した。
池田はその態度の、何となくわざとらしいのが可笑しかった。けれども同じように名刺を出してから、
「今日はどうも大変失敬しました」と挨拶をした。
「イヤ、丁度私が昼飯に行っていていなかったものですから、然し行き違いは何処にもある事ですから、気にしないで又遊びにお出で下さい」
笑いながら言ってはいたが、その眼には何となく陰険なものが潜んでいた。
「君もどうかちっと」と言ってから、「山が退けるといけないから、僕は失敬します」と頭を下げて、池田はその道を下って行った。