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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
仕方がないので松田は、ウンと抉って抜くと、大きな男は黙ってパッタリ倒れてしまった。
松田は急に恐ろしくなって、滅茶苦茶に逃げ出した。その時彼の眼には、三田も、薄髯の男も、何もうつらなかった。暗い道をただ一心に馳け出したのであった。殊に彼は、この山に来たばかりなので、その辺の地理はまるで知らなかった。一時間位も馳け通したと思うと、彼はまた元の弁天堂の後ろに来た。
暗の森の中に、カンテラが一つぶら下って、人声がガヤガヤしていた。彼は顔馴染のないのを幸いに、側まで行って見た。
其処にはさっきの男が、血にまみれてもう冷たくなって横わっているのを、赤ずんだカンテラの焔が気味悪く照らしていた。周りを取り巻いた二三人の人は、夜明けまで番をしているのだと言っていた。
彼はその時、自分が此の男を殺したのだとは思えなかった。唯だ薄茫然として、暗い道を探しながら飯場に帰ったのは三時頃であったと言った。
「どうして直ぐ逃げなかったんだ」と池田が訊いた。
「鈴木の伯父御に迷惑をかけちゃ済まないと思ったし、三田の兄貴のことも気になって、逃げる気にもならなかったんでした」と、松田は覚悟したように言った。