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おんし
恩師
佐々木 邦
「現代」1926(大正15)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,714 字 · 14 页
「初陣です。恐れ入りますが、その陣羽織を」
と私はこの機を利用して初めて清子さんに外套を着せて貰った。
平常遅刻をする連中も今日は多少身の浮沈に関係するから真剣だった。私が着いた時にはもう大抵揃っていた。外国では豪そうな名前の会社ほどビルデングの高層へ追い上げられているそうだが、東洋興業もその通り四階の一隅を借りている。今日はその一部分を不二商事が又借りして会見を行うのである。控室で待っている間に、
「久保君、便所へ行って置こう」
と浜口君が誘った。これは気を落ちつける為めだと解して、私はお供をした。途中廊下で一人の中年紳士に行き会った。私が右へ避けると紳士も右へ寄った。私が慌てゝ左側を通ろうとすると紳士も左側へ志した。斯ういうことは広い往来でも時折ある。此方が諦めて立ち止まった時、先方も諦めて立ち止まった。
「や」
とその刹那私は相手の顔を認めてピョコンとお辞儀をした。
「やあ」
と紳士も会釈して行き過ぎた。
「知っているのかい?」
と浜口君が訊いた。
「中学の時の英語の先生だ。変な人に会ったなあ」
「何故?」
「何故って、僕達がストライキをやって追い出したんだもの」