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あくむ
悪夢
豊島 与志雄
「改造」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页
凡てのことが、硝子一枚距てたように、自分と或る程度まで没交渉に冴え返っていたが、その中から、ふいに私の頭へ躍り込んできたものがある。それは私が辿った道筋だった。石を投げてから下宿へ戻るまでの道筋と、下宿からまた出かけてきた道筋とが、不気味なほどはっきりと眼に見えてきた。それはうねうねとしてる二筋の縄で、その両端が、一方は下宿に他方は今立ってる横町に、結び合わされていた。その同じ道筋の上を、何度もくるくる歩き廻るだろう自分の姿が、頭に映ってきた。
私は堪らなくなって、何かに反抗するような気勢で、そのくせ、自分を引入れようとしてる二筋のつながった道から逃げ出すように、大道りへ飛出して、向うの硝子店をじろりと見やりながら、暫く歩いてみたが、もう我慢が出来なくなって、通り過ぎる電車に飛び乗ってしまった。
さて何処へ行こうかと考えてるうちに、車掌がやって来ると、私はすぐに切符を差出して、都会のうちの最も雑踏し蒸れ返り酔い爛れた方面を、前から予定の目的地ででもあるように名指したのだった。その後で、其処へ行くという志がはっきりして来た。そんな場所へでも行って、人込の中に自分を溺らしてしまうのが、その時の私の気持にぴたりと合った。