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あくむ

悪夢

豊島 与志雄

「改造」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页

青空文庫

それからどの電車も、停留場毎に停っては、客を吐き出したり呑み込んだりしながら、いつも溢れるばかりの満員だった。それらのごたごたした混雑の中に、干乾びたアスファルトの上に、私は自分を見出して、何のためにこんな所へ出て来たのかと、惘然としてしまった。大地の肌に触れたければ、寧ろ閑静な裏通りの方へでも行くべきではなかったか。然し都会の中には、何かしら賑やかな雑踏の方へと、渦巻き濁った蒸れ臭い方へと、人を引き寄せる誘いがある。それが都会の蠱惑である。

私はその蠱惑にかかって、ただぼんやり歩いてるうちに、ひしと心に迫る淋しさを覚えてきた。そしてしきりに顧みさせられる自分自身の姿は、自然から根こぎにされ都会から窒息されかかってる、惨め極まるものだった。深い憂欝に胸が塞がれて、何とも云えない息苦しさを肉体的にまで覚え初めた。然し私とても、愛する妻や子や温い家庭があり、またはやさしい恋人があったら……否そういうものはなくとも、変化と余裕とのある生活と金とさえあったら、揚々として都会の大通りを活歩したかも知れない。或はそういう生活と金とが、私一人の所有でなくとも、せめて万人の共有であって、私も自分の分前だけそれを享有することが出来たら、私は恐らく息苦しさを覚えないで済んだであろう。