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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

そこで、当然私は、先日のN某君にもう一度改めて会いたいと思った。会って、この不思議な犯罪事件について、同君の口から何事かを聞出したいと思った。記録を所持していた同君は、この事件に全く無縁の者ではないと思ったからだ。併し、残念な事には、記録を買取った時の事情があんな風であった為に、私は、某君の身の上について何事も知らなかった。彼の面会強要の手紙は三通残っていた。けれど所書きは皆違っていて、二つは浅草の旅人宿、一つのは浅草郵便局留置きで返事を呉れとあって所書きがない。その旅人宿二軒へは、人をやったり電話をかけたりして問合せたけれど、N某君の現在の居所は全く不明であった。

記録というのは、真赤な革表紙で綴じ合せた、二冊の部厚な手紙の束であった。全体が同じ筆蹟、同じ署名で、名宛人も初めから終りまで例外なく同一人物であった。つまり、この夥しい手紙を受取った人物が、それを丹念に保存して、日附の順序に従って綴じ合せて置いたものに相違ない。若しかしたら、あのN某こそ、この手紙の受取人で、それが何かの事情で偽名していたのではなかったか。こんな重要な記録が、故なく他人の手に渡ろうとは考えられないからだ。