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あくりょう
悪霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页
君も記憶しているだろう。古風な黒板塀に冠木門、玄関まで五六間もある両側の植込み、格子戸、和風の玄関、廊下を通って別棟の洋館、そこに博士の書斎と応接室とがある。僕は女中の案内でその応接室に通った。いつの例会にもここが会員達の待合所に使われていたのだ。
応接室には黒川博士の姿は見えず、一方の隅のソファに奥さんがたった一人、青い顔をして腰かけていらしった。君は奥さんには会ったことがないだろうが、博士には二度目の奥さんで、十幾つも年下の三十を越したばかりの若い方なのだ。美人という程ではないけれど、痩型の顔に二重瞼の大きい目が目立って、どこか不健康らしく青黒い皮膚がネットリと人を惹きつける感じだ。挨拶をして、「先生は」と尋ねると、夫人は浮かぬ顔で、
「少し怪我をしましたの、皆さんがお揃いになるまでと云って、あちらで寝んでいますのよ」
と云って、母屋の方を指さされた。
「怪我ですって? どうなすったのです」
僕は何となく普通の怪我ではない様な予感がして、お世辞でなく聞返した。
「昨夜遅くお風呂に入っていて、ガラスで足の裏を切りましたの。ほんのちょっとした怪我ですけれど、でも……」