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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

それ程、この書翰集は巧みに書かれていたと云えるのだ。そこで私は、私の買取った二冊の記録を、殆ど加筆しないでそのまま発表する決心をした。書翰集のところどころに、手紙の受取人の筆蹟と覚しく、赤インキで簡単な感想或は説明が書き入れてあるが、これも事件を理解する上に無用ではないと思うので、殆ど全部(註)として印刷することにした。

事件は数年以前のものであるし、若しこの記録が事の真相であったとしても、迷惑を感じる関係者は多く故人となっているので、発表を憚る所は殆どないのであるが、念の為に書翰中の人名、地名は凡て私の随意に書き改めた。併し、この事件の新聞記事を記憶する読者にとって、それらを真実の人名、地名に置き替えることは、さして困難ではないと信じる。

今私はこの著述がどうかしてN某君の眼に触れ、同君の来訪を受けることを切に望んでいる。私は同君が譲ってくれたこの興味ある記録を、そのまま私の名で活字にすることを敢てしたからである。この一篇の物語について、私は全く労力を費していない、随ってこの著述から生じる作者の収入は、全部、N某君に贈呈すべきだと思っている。この附記を記した一半の理由は、材料入手の顛末を明かにして、所在不明のN某君に、私に他意なき次第を告げ、謝意を表したい為であった。