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あくりょう
悪霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页
閉め切った部屋は、空気のそよぎさえなく、少しむし暑い感じであったが、じっと気を澄ましていると、温度に無感覚になって行く様に思われた。
余りに静かなので、一人一人の呼吸や心臓の音までも聞取れる程であった。
黒川先生はやや十分ほども、姿勢を正して瞑目していらしったが、霊媒の呼吸が寝入った様に整って来た時、ソッと手を伸ばして卓上燈のスイッチをお廻しなすった。部屋は冥界の闇にとじこめられた。
それから又五分程の間、実験室には死の様な沈黙が続いた。じっと目を凝らしていると、全く光のない密閉された室内ではあったが、何かしらモヤモヤと、物の形が見分けられる様に思われた。中にも、長椅子に横わっている龍ちゃんと、丁度僕の向側に腰かけている鞠子さんの服装が、闇をぼかして、薄白く浮上って来た。
「織江さん、織江さん」
突然、闇の中に人の声がして、その部屋にはいない人物の名を呼ぶのが聞えた。黒川博士が霊媒の龍ちゃんのコントロールを呼び出していらっしゃるのだ。コントロールというのは、謂わば龍ちゃんの第二人格であって、盲目の少女の声を借りて、幽冥界からこの世に話しかける霊魂のことだ。