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あくまのでし
悪魔の弟子
浜尾 四郎
「新青年」1929(昭和4)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页
夜の十時頃ようやく書き終りました。
いよいよ薬をのもうという前に、再び私は考えたのです。
遺書を残すことはいらぬことだ。永遠に知られざる犯罪を残して行くことの方が興味がある。斯う思った私は、今まで書いた遺書を全部焼きすてました、――否、全部焼き捨てたと思ったのです。
然るに、不幸な偶然が此の時又私を襲ったのです。何分にも心の平静を欠いて居たあの時です。私は全部を焼き捨てた、と思いながら、其の一部が未だ燃えて居なかったのに気が付きませんでした。而も其の一部というのは、露子を殺す決心をしてから其の実行にとりかかる迄の部分です。即ち、
「私は彼女からどうしても逃れようと決心した。どうしても彼女を殺さねばならぬ」
という所からはじまって、
「彼女は恐らく薬に関しては知識はあるまい、従って私が彼女に之を呑ませても気が付く筈はないのだ」――「私は自分でのんで見せた。彼女は黙って之を見て居た。私は自分で量をはかって彼女に与えた」
という所で終って居る部分です。
若し私が彼女という代りに「妻」若くは「露子」と書いたら、之がすえ子の変死に対する殺人の嫌疑の証拠とはならなかったでしょう。