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あくまのかお
悪魔の顔
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页
が二百粒やった内、まだほんの十粒位しか無くなって居ないのに、父親を殺したチョコレートの中には、かなり多量の亜砒酸が入って居たことがわかったのです。
この簡単な算術は、美保子の汚名を完全に救いました。三日目に帰って来ると、さすがに継母の濤子も喜んでくれましたが、一番喜んだのは従兄の田庄平で、美保子の無事な顔を見ると、ソワソワして殆んど仕事も何も手に着かない程でした。
犯人は美保子でないとすると、事件は迷宮に入ってしまいます。花房一郎は多量の亜砒酸の入って来た経路を調べて居るようでしたが、それも容易にはわかりません。
葬儀万端済んでしまって、石井家も漸く落付いた頃、暫らく遠ざかって居た芦名兵三郎は、又足繁く未亡人の濤子を訪ねるようになりましたが、これと言って疑わしい点もありません。
「芦名という男は、園芸に趣味を持って居るそうだネ」
花房一郎は不意にこんな事を十次郎に訊きます。
「そうだって言うよ、あの男は今でこそ貧乏して居るが、先代の時代は大変な景気で、屋敷だけでも何万坪とかあるそうだ、――尤も幾重にも抵当に入って居るって話だが――その庭園を利用して、なかなか大袈裟に園芸をやって居るんだそうで、本人もヒドク自慢らしいよ」