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あくまのかお
悪魔の顔
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页
「亜砒酸や青酸やニコチンなどは、園芸家が害虫駆除に使うだろう」
「エ?」
花房一郎の恐ろしい頭の働きは、芦名兵三郎の上に一抹の疑いを掛けて居るのでしょうか。
「ナニ、一寸人から聞いただけの話なんだ、半年ばかり前に、芦名という男は多量の亜砒酸を買い入れた事がある。それは生薬屋をしらべて解った事なんだが、――唯それだけの話だよ、黙って居てくれ」
新聞記者と刑事と、材料の交換はよくあることですが、名探偵の花房一郎と名記者の千種十次郎の交際は、そんな浅墓なものでなく、利害を離れた友情になって居るので、お互に信頼し合う結果が、ツイ斯うした打明け話にもなるのでした。
併し花房一郎は何時迄経っても芦名兵三郎を縛りそうもありません。そればかりでなく、二三日経つと何も彼も忘れてしまったように、芦名と談笑して居ることさえありました。花房一郎ともあろう者が、軽薄者の芦名と親しくして居るのを見て、千種十次郎はどんなに眉をひそめたかわかりません。
その内に、又一つの新しい事件が起りました。それは、濤子に辱しめられて、亡き父に最後の暇乞をすることも出来なかった関子は、法律上は依然として石井馨之助の長女で、廃嫡も何んにもされて居なかったのを幸い、継母の濤子を相手取って、遺産引渡しの訴訟を、何んかの形式で提起しようとして居ることがわかった