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あくまのかお

悪魔の顔

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页

青空文庫

十一時頃にはもう、すっかり調子づいて、ワッワッという騒ぎ――、何んな大事件が起っても、この恐ろしい歓喜を拒めそうもありません。

「タ、大変、お、奥様!」

不意に、廊下の外へ恐ろしい悲鳴が響きます。歓楽の渦はピタリと停って、皆んなの表情は一瞬――恐怖に硬ばります。

「奥様ッ、旦那様が、タ、大変で御座います」

扉を押し開いて飛び込んだのは、主人付の女中、

「何うしたの、旦那様が何うかなすったのかえ?」

濤子夫人が一番に廊下に出ると、続いて酒井博士が飛び出しました。

やがて、その後を追おうとする男女の来客の雪崩は、階子段の下で、酒井博士に喰い止められてしまったのです。

「御主人が急病だそうです、暫らく私に任せて下さい」

男女の来客は、スゴスゴと元の客間に引返しました。夫人と主治医の博士が引受けた上は、来客達は押してもというわけには行きません。

それから三十分もすると、客の半分は帰ってしまいました。千種十次郎も何遍か立ちかけましたが、妙に新聞記者の第六感が働いて、此儘立ち去る気になれません。何んかしら、此邸の中には事件の匂いがして来たのです。

やがて、年齢の割には好奇心の満々として居るらしい小西老人が、滑るように客間を出て、十分ばかりすると又滑るように帰って来ました。