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かなしいごかい

悲しい誤解

豊島 与志雄

「女性改造」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页

青空文庫

そこで、やきいも屋も初めるんだ。ほかほかの焼きたて……面白いじゃないか。」

「そんなもの、買う人があるでしょうか。」

みさ子はもう上の空の言葉だ。分らないのである。

「誰でも買うさ。珍らしいからね。おいしく焼いて、子供たちに安く売ってやれよ。女の子や男の子、小学校の生徒たちに、売ってやれよ。女学生にも売ってやれよ。若いお上さん、若い奥さん、みんなに売ってやれよ。そこから、人生の幸福が初まるんだ。」

私は悲しくなって、盃の上に顔を伏せた。

「まあ、たいへんな幸福ね。」

「そうさ。やきいもから幸福が初まる。だから僕は悲しいんだ。こんな、酒場なんかやめちまえ。やきいも屋になるんだ。ほかほかの焼きたて、幸福そのものじゃないか。」

みさ子は気を入れてじっと私を眺めた。私は顔が挙げられない気持ちだ。

「やきいもと、お酒と、なにか関係がありますの。」

「関係なんかあるもんか。酒なんてものは、酒なんて……飲むやつはみんなばかだ。幸福からの落伍者だ。そして、思い上りだ。やきいも……ただやきいもさ。」

私は一息に盃を干して、あとを銚子からつぐと、酒は溢れて、スタンドの上を流れ走った。