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かなしいごかい

悲しい誤解

豊島 与志雄

「女性改造」1949(昭和24)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页

青空文庫

その行方を見ていると、そこに、薄茶色のしなやかな革の手袋があって、それに酒が少し触れた。さよ子が駆け寄って手袋の露を払い、スタンドを布巾で拭いた。

今頃、十月にはいったばかりなのに、手袋はおかしい。手袋を受け取った男を見ると、いつはいって来たのか、黒のダブルの上衣に、赤っぽいネクタイをしめ、色眼鏡をかけた、長髪の若者なのだ。私をじろじろ眺めた。

「焼芋の先生、ひとの持ち物をよごしておいて、何か、挨拶がありそうなもんじゃねえか。」

まだ酔ってはいないらしい。

「まあ、酒でも飲もうよ。」

「何を。焼芋の肴で酒が飲めるか、挨拶はこうするもんだ。」

すばらしい早業だった。私は横面に平手の一撃を受けて、椅子から転げ落ち、尻もちをついた。頬に音はしたようだが、痛みはあまり感じなかった。相手が心して殴ったのであろうか。とっさにそのことを思って、私はとても惨めになった。よろよろと立ち上り、スタンドにつかまって、自分でも不敵なと思えるほどの卑屈な微笑を浮かべ、彼の方をじいっと見つめた。彼は一瞥しただけで、私から眼を外らした。みさ子がスタンド越しに彼の腕を捉えていたが、その手を彼は静かにはずし、紙幣を二枚投げ出し、私の方へはもう目もくれずに、悠々と出て行った。