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おろかないちにち

愚かな一日

豊島 与志雄

「太陽」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页

青空文庫

その時、瀬川が木戸口から庭へはいって来た。その姿を見ると、彼は急に狼狽したような気持ちになって、また床の中にはいった。

「こんなに早くから起きてたりなんかして、大丈夫なのかい。」

「うむ、もういいんだ。それに僕にとっては早朝でもないんだからね。」

瀬川は縁側から上って来た。

「海に行って来たがいい気持ちだね。君も外を歩けるように早くなり給えな。」

瀬川は頬に生々とした血を通わして、喫驚したような大きい眼をしていた。

「君、今日は晩までいいんだろう。」と彼は云った。

「いや、いつも余り長く邪魔してもすまないから……、それに今日は少し用もあるので、九時ので帰ろうかと思っている。」

「然し大した用でもないんだろう。」

「大した用というほどでもないが。」

「ではせめて昼御飯でも食べていってくれないか。僕は一人で淋しすぎる位淋しいんだから。僕は黙ってるかも知れないが、それでよかったら、せめて午頃までこの室に寝転んでいってくれない?」

瀬川は黙って彼の方を見た。

「黙っててもいいんだろう。」

「ああそれの方がいい。」と瀬川は云った。「昨日は君が何だか苛々してるようだったから、僕は一人心配してたんだよ。