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つきもの

憑きもの

豊島 与志雄

「改造文芸」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,983 字 · 27 页

青空文庫

私は意外なことを発見した。それまで、怪談とか迷信とか霊界とかを軽蔑しきっていたが、実はそういうものが、アルコールと同様に私の精神を酔わせ、アルコール以上に私の精神の栄養分となりそうに思われたのだ。宗教は阿片かも知れないが、そういう規格づけられた宗教は別として、妖怪変化や悪魔の類は、私の萎靡した創造能力を鼓舞してくれそうだった。

私は楽しく酒を飲んだ。散会してからも、新橋駅までの客の見送りは黒田と安藤とに任せ、一人居残って酒を飲んだ。

「も少し飲もうよ。今夜は面白かった。」

お上さんと秋子を私は呼び寄せた。

「狐や狸の霊があるとしましたら、崇ったり憑いたりすることもあるでしょうにね。」

お上さんの言うことが道理だと、私は思うのである。

「黒田さん、意気地がありませんわね。もっと、本気で、狐に憑かれなすったら、面白かったでしょう。」

秋子の言うことは痛快だと、私は思うのである。

「そうだ、僕だったら本気で憑かれてみせるね。君はどうだい。」

「あたしも憑かれてみせますわ。」

「じゃあ、僕が憑いてやろうか。」

「ええ、どうぞ。その代り、あたしもあなたに憑きますよ。」