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つきもの

憑きもの

豊島 与志雄

「改造文芸」1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,983 字 · 27 页

青空文庫

私はその医者に健康診断をして貰ったが、私には病気はなかった。

自分の姿が遊離して行動する。そのようなばかげた幻覚は私にはない。だが往々にして、第三者の眼がありありと見えるのだ。

焼け跡の道を歩いていて、ふと足を止め、若葉を出してる草むらを眺めていると、その草むらの中に、一つの眼が現われて、私の方をじっと眺めている。

キャバレーの円柱のかげで、ウイスキーのグラスをなめていると、音楽が途絶えてひっそりした瞬間、一つの眼が宙に現われて私の方をじっと眺めている。

河岸ぷちの柳の小枝が垂れ下ってるのを見て、夕方、枝が重いか青葉が重いかと、ばかなことを考えているとたんに、一つの眼が柳の中から浮き出してきて、私の方をじっと眺めている。

酒にもくたびれ、自分の室にはいるなり、仰向けにひっくり返って眼を閉じ、やがてぼんやり眼を開くと、天井に一つの眼があって、私の方をじっと眺めている。

いつも一つの眼だ。二つじゃない。然しそれが少しも不思議でなく、自然なのだ。大きさもいろいろだが、少しも不自然なところはない。だから、形態ははっきりした眼だが、視線と言い換えても差支えないかも知れない。