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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)
〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)
室生 犀星
「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页
必死の男
わづか三尺の窓内にありて
このあめつちをつかまんと
必死の男あるなり
外にはよその子等あそび
をみなは夕餉にいそがしく
世のさまのふしぎもなし
されど何故に肉を穿ち
骨を削りつくして
紙にインキをちりばめんとするや
をみなは貯金をすすめ
彼は又その魂を千切りつつ
文字を裂きて売らんとすなり
(中略)
ああ あめつち遂に何者ぞ
今の世に千年の詩文あるべしや
秋は方に寒からんとす
佐藤はこどもがほしかったらしい、前の夫人花枝さん(死別)にもこどもがなかった。あとの夫人周子さんにもこどもが出来なかった。佐藤は何度も医院に通い、どうして子供が出来ないかを診て貰ったが、肉体的には異常はない、そのため試験管だか他の方法であったか忘れたが、佐藤は自分の精虫だか精液だかわすれたが、そういうものまで病院で試験してもらったが異常がなかったと、或日彼は私にそれを真面目くさった顔付で話した。周子夫人もついにこどもさんがないまま、佐藤と死別された。私はその折、ふしぎな家庭事情を発見した。
佐藤に妹さんがあり他家に縁づいていたが、そのこどもさんが佐藤の遺言によって惣之助家を相続することになっていて、周子夫人へは雪ヶ谷の自宅を譲渡する以外に、何も与えないことになっていた。