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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)

〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)

室生 犀星

「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页

青空文庫

櫻井書店からの全集の印税も、法律上では周子夫人には支払われないことになり、他の著作物の印税の悉くは入籍してあったこどもさんが受取る名儀になっていた。私はあれほど愛していたわかい周子さんに、殆ど遺産の半分も渡らぬ手筈の遺言を佐藤がしていたのかと、人間の愛情というもののあさはかさを感じた。舐めるように愛されていてふたを開ければ、世のつね人の商家のおやじの遺言の如きものを作成してあったということは、佐藤らしからぬ印象であり払拭出来ない不愉快なものであった。私はそのため櫻井書店に印税の半額は周子夫人にあげてくれるよう依頼して置いたが、それはどうなったか、私に判りようもないし、聞くのも憂鬱だったのでそのままになっていた。わが愛する詩人佐藤惣之助は寝るときだけ、べちゃくちゃと夫人を愛していて、いざ遺言作成ということを何時の間にかしていて、しかも、それには近頃入嫁したかどで新夫人には何にも貰えぬことにしてあったのかと、故友の心のあさはかさが、再び私の友情にびりびりひびいた。おっちょこちょいめ、そういうところにおっちょこちょいを良く拭きとっていたのかと、私はくやしく悲しい眼でその後始末を小耳にはさんでいた。