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〈わがあいするしじんのでんき〉(ほい)

〈我が愛する詩人の伝記〉(補遺)

室生 犀星

「婦人公論 第四十三巻第五号」1958(昭和33)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,167 字 · 22 页

青空文庫

つまり八拾円が原価でありその半分で契約済になったのである。私は二十幾つかある釦を一々かけたり外したりする洋服というものに、既に懲りこりしていたのである。

佐藤惣之助はそのスプリング・コオトを着て、或日一緒に飲みに出かけると新調の私の帽子をつくづく見て、いい帽子だなあ、軽くてトルコ型で、それで日本風で気に入ったなあ、幾らしたの、ふうむ、四十円したかあ、そうだろうな獺の毛皮だからなあ、とひねくり※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)し撫で※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)し冠ったり掴んだりして見ていた。けれども私は売るともやるとも言わなかった。日本橋の毛皮屋でトルコ帽の型ではあるが、いささか周囲をひろげて作り、年よりくさくないよう又トルコ帽でない作りを凝らした物で、まだ二カ月しか冠っていなかった。けれども、次ぎに会った時もまたつくづく私の頭の上を見上げて、いい帽子だなあ、おれも一つ張り込んで作るかなあ、併し四十円は少し高価だなあ、釣をしに行く時に風に飛ばされないから、調法だ、全くいい帽子だと彼は褒めちぎり、これはいよいよ佐藤に奪られることになりそうだと、私はつい酒機嫌の好さも手伝って、そんなに良ければ潔よく進呈する、どうも僕には似合わない気がするんだというと、佐藤惣之助はたちまち感動しやすい男だけに