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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
「なんて静かな所でしょう。塾よりもきっと静かよ。でもこんなに森があっちゃ夜になったらさびしいわねえ。わたしひとりでお便所に行けるかしらん。……愛ねえさん、そら、あすこに木戸があるわ。きっと隣のお庭に行けるのよ。あの庭に行ってもいいのおねえ様。だれのお家むこうは?……」
貞世は目にはいるものはどれも珍しいというようにひとりでしゃべっては、葉子にとも愛子にともなく質問を連発した。そこが薔薇の花園であるのを葉子から聞かされると、貞世は愛子を誘って庭下駄をつっかけた。愛子も貞世に続いてそっちのほうに出かける様子だった。
その物音を聞くと葉子はもう我慢ができなかった。
「愛さんお待ち。お前さん方のものがまだ片づいてはいませんよ。遊び回るのは始末をしてからになさいな」
愛子は従順に姉の言葉に従って、その美しい目を伏せながら座敷の中にはいって来た。
それでもその夜の夕食は珍しくにぎやかだった。貞世がはしゃぎきって、胸いっぱいのものを前後も連絡もなくしゃべり立てるので愛子さえも思わずにやりと笑ったり、自分の事を容赦なくいわれたりすると恥ずかしそうに顔を赤らめたりした。