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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
先方の人たちの年齢がどのくらいで容貌がどんなふうだなどという事も葉子は少しも注意してはいなかった。その心の中にはただ倉地の姿ばかりがいろいろに描かれたり消されたりしていた。
列車が新橋に着くと葉子はしとやかに車を出たが、ちょうどそこに、唐桟に角帯を締めた、箱丁とでもいえばいえそうな、気のきいた若い者が電報を片手に持って、目ざとく葉子に近づいた。それが双鶴館からの出迎えだった。
横浜にも増して見るものにつけて連想の群がり起こる光景、それから来る強い刺激……葉子は宿から回された人力車の上から銀座通りの夜のありさまを見やりながら、危うく幾度も泣き出そうとした。定子の住む同じ土地に帰って来たと思うだけでももう胸はわくわくした。愛子も貞世もどんな恐ろしい期待に震えながら自分の帰るのを待ちわびているだろう。あの叔父叔母がどんな激しい言葉で自分をこの二人の妹に描いて見せているか。構うものか。なんとでもいうがいい。自分はどうあっても二人を自分の手に取り戻してみせる。こうと思い定めた上は指もささせはしないから見ているがいい。……ふと人力車が尾張町のかどを左に曲がると暗い細い通りになった。