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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
倉地も汽車の中から自然に気分が晴れたと見えて、いかにも屈託なくなって見えた。二人は停車場の付近にある或る小ぎれいな旅館を兼ねた料理屋で中食をしたためた。日朝様ともどんぶく様ともいう寺の屋根が庭先に見えて、そこから眼病の祈祷だという団扇太鼓の音がどんぶくどんぶくと単調に聞こえるような所だった。東のほうはその名さながらの屏風山が若葉で花よりも美しく装われて霞んでいた。短く美しく刈り込まれた芝生の芝はまだ萌えていなかったが、所まばらに立ち連なった小松は緑をふきかけて、八重桜はのぼせたように花でうなだれていた。もう袷一枚になって、そこに食べ物を運んで来る女中は襟前をくつろげながら夏が来たようだといって笑ったりした。
「ここはいいわ。きょうはここで宿りましょう」
葉子は計画から計画で頭をいっぱいにしていた。そしてそこに用らないものを預けて、江の島のほうまで車を走らした。
帰りには極楽寺坂の下で二人とも車を捨てて海岸に出た。もう日は稲村が崎のほうに傾いて砂浜はやや暮れ初めていた。小坪の鼻の崕の上に若葉に包まれてたった一軒建てられた西洋人の白ペンキ塗りの別荘が、夕日を受けて緑色に染めたコケットの、髪の中のダイヤモンドのように輝いていた。