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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
店のものがあわてて部屋にはいって来た時には、葉子はしおらしい様子をして、短銃を床の下に隠してしまって、しくしくとほんとうに泣いていた。
番頭はやむを得ず、てれ隠しに、
「夢でも御覧になりましたか、たいそうなお声だったものですから、つい御案内もいたさず飛び込んでしまいまして」
といった。葉子は、
「えゝ夢を見ました。あの黒い蛾が悪いんです。早く追い出してください」
そんなわけのわからない事をいって、ようやく涙を押しぬぐった。
こういう発作を繰り返すたびごとに、葉子の顔は暗くばかりなって行った。葉子には、今まで自分が考えていた生活のほかに、もう一つ不可思議な世界があるように思われて来た。そうしてややともすればその両方の世界に出たりはいったりする自分を見いだすのだった。二人の妹たちはただはらはらして姉の狂暴な振る舞いを見守るほかはなかった。倉地は愛子に刃物などに注意しろといったりした。
岡の来た時だけは、葉子のきげんは沈むような事はあっても狂暴になる事は絶えてなかったので、岡は妹たちの言葉にさして重きを置いていないように見えた。
四〇
六月のある夕方だった。