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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
東京の中央にこんな所があるかと思われるほど物さびしく静かで、街灯の光の届く所だけに白く光って斜めに雨のそそぐのがほのかに見えるばかりだった。寒いとも暑いともさらに感じなく過ごして来た葉子は、雨が襟脚に落ちたので初めて寒いと思った。関東に時々襲って来る時ならぬ冷え日でその日もあったらしい。葉子は軽く身ぶるいしながら、いちずに倉地のあとを追った。やや十四五間も先にいた倉地は足音を聞きつけたと見えて立ちどまって振り返った。葉子が追いついた時には、肩はいいかげんぬれて、雨のしずくが前髪を伝って額に流れかかるまでになっていた。葉子はかすかな光にすかして、倉地が迷惑そうな顔つきで立っているのを知った。葉子はわれにもなく倉地が傘を持つために水平に曲げたその腕にすがり付いた。
「さっきのお金はお返しします。義理ずくで他人からしていただくんでは胸がつかえますから……」
倉地の腕の所で葉子のすがり付いた手はぶるぶると震えた。傘からはしたたりがことさら繁く落ちて、単衣をぬけて葉子の肌ににじみ通った。葉子は、熱病患者が冷たいものに触れた時のような不快な悪寒を感じた。
「お前の神経は全く少しどうかしとるぜ。