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あるひ
或る日
宮本 百合子
「愛国婦人」1925(大正14)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,119 字 · 21 页
彼は自分の不快の為に彼女が断った今日の招待状が二枚、化粧台の上に賑やかな金縁を輝かせているの知っていた。
彼女は、朝の髪を結うとき、殆どひとりでに改めてその華やかな文字を眺めなおしただろう。きっと寂しい眼付をして窓の外を眺め、髪を結いかけていた肱を一寸落さなかったと如何うして云える?
起きてから、彼女は断った招宴について一言も云わなかった。けれども彼は、彼女の寡言の奥に、押し籠められている感情を察し抜いた。その一層明らかな証拠には、いつも活溌に眼を耀かせ、彼を見るとすぐにも悪戯の種が欲しいと云うような顔をする彼女が、今朝は妙に大人びて、逆に彼を労り、母親ぶり「貴女に判らないこともあるのですよ」と云いたげな口つきをしているではないか。
彼が寝台の裾の方の窓枠に載っているシクラメンの鉢を見ながら此様な事を考えていた時、彼方の廊下で激しく電話のベルが鳴り渡った。
れんがとり次いでいる声がとぎれとぎれに聞えた。程なく、彼女は、室の内側に開く扉のかげにはりついたような形をして首だけ彼に向けながら
「依岡様からお電話でございます。あの――」
何故か、れんはこの時総入歯の歯を出してにっと笑った。