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あるそびょう
或る素描
豊島 与志雄
「新潮」1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,802 字 · 24 页
「どうです、気分は……。障子を開けましょうか。」
私は喫驚して、肺炎だというのに障子を開けちゃいけないと云った。然し彼は、一寸なんだからと弁解して、障子を少し引開けて、うとうとした眼を見開いてる母親の顔を眺めてから、また庭の仕事の方へ行った。その後で私は、腰を伸して障子に手をかけた。
「まだ陽気がさほどでもありませんから閉め切った方が宜しかありませんか。」
「ええ……。」
母親は曖昧な返辞をして、人の善い微笑を浮べた。私は構わず障子を閉めきった。
そんなことが二三度くり返された。そして何時間かの後、もう日脚が隣家の屋根に遮られてしまった頃、彼は漸く足を洗って上ってきた。
「ああ疲れた。」
私は少し憤慨していた。いくら自分が庭で働いてるからって、肺炎の母親が寝てる室の障子を開け放す法はないと、そう思ったばかりでなく、実際口に出して彼をたしなめた。が彼は平然としていた。
「そりゃあそうだが……然し……もうよほどいいんだよ。ね、お母さん、いいんでしょう。今日は大変いいんですね。」
「ええ、お影さまで……。庭の仕事は、もう済みましたか。」
「済みました、すっかり。これでさっぱりした。