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あるせんきょふうけい

或る選挙風景

坂口 安吾

「新潮 第四八巻第七号」1951(昭和26)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,997 字 · 14 页

青空文庫

その絶叫が絶えているのは、朝、昼、晩の食事の時間だけだということを自然に理解するほど執拗に悩まされたのである。そしてそれは時に深夜十一時半までつづいたね。それはダンスホールの許される時間という意味に解すべきかも知れん。だが、奇妙なことに、日中の一定の食事時間はピタリと声がやみ、その静寂を破る例外が完璧に一人の声すらもないのだ。なんという時間的なサムライであろうか。要するにこのサムライたちは食事の時間というものを如何に大切に重大にしているかということを私はキモに銘じたのである。私はトラックの通過を見るたびに、規則的な十あまりの胃袋がそこにひしめいているのを確実に見た。それらはまさしく胃袋であったが、最後尾にイスに腰かけてジッと後方正面を正眼に見つめている六十何歳かの武芸者然たる存在はいかなる臓モツであるか。脳であるか。ノオ! 心臓であるか。否、否。それは臓モツではない。そして規則的な胃袋に食物を供するララ的な象徴でもないらしい。こういうのもフランスの近代小説にあったね。ジャン・コクトオの「ポトマック」というのさ。タコのような口をもった怪物で、人間に吸いついて臓モツも骨もみんな食べてしまう。