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てふうきん

手風琴

小川 未明

「民政」1933(昭和8)年9月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,957 字 · 6 页

青空文庫

紺碧に暮れていく空の下の祭壇に、ろうそくをともして、祈りを捧げているようにも見られたのです。

「よく剣ヶ峰が拝まれる。」と、じいさんは、かすかはるかに、千古の雪をいただく、鋭い牙のような山に向かって手を合わせました。

それから、治助じいさんが、自分の小舎にもどって、まだ間がなかったのでした。どこからか、風におくられて手風琴の音がきこえてきたのでした。

「まだ、別荘にいる人たちででもあるかなあ。」

じいさんは、耳を傾けました。それにしてはなんとなく、その音は、真剣で悲しかったのです。

そのとき、小舎の入り口に立ったのは、破れた洋服をきて、かばんを肩にかけ、手風琴を持った色の黒い男でした。

「見たことのある人のようだな。」と、じいさんが男の顔をながめていいました。

「村へ、二、三度きたことがあります。田舎をまわって歩く薬売りですよ。」

「ああ、薬屋さんか、すこし休んでゆきなさい。」と、じいさんが男を小舎の中へいれました。

男は、この村へはいってくるのには、いつも、あちらの山を越えて、しかも、いま時分、高原を通ってくるのだということを話しました。

「どんな、薬を売りなさるのだ。