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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

大鹿さんは灰村カントクに育てゝいただいた義理はありますが、チェスターとの契約は一シーズンだけで、今度のシーズンの契約は、まだ取極めていなかったのです。私はそれを主張して、上野さんと争論になりましたが、果しがないので、立上りました。そんなことで、二三十分、費したでしょう。そして私は自動車を拾って、ここへ一人できたのでした」

「この隠れ家を知ってるのは誰々ですか」

「二人のほかに、私が教えてあげたのは、煙山さんと、岩矢だけ、あとは心当りがありません」

ところが母屋の葉巻太郎が、意外な証言をした。

「今夜九時ごろでした。一服さんがウチの玄関へきて、ここに大鹿さんが泊ってるだろうと仰有るのです。私がアトリエへ案内してあげました」

「一服って、どんな人だね」

「ピースの左腕剛球投手、一服さんですよ」

「アッ。そうか。そして、そのほかに、訪問客はなかったのですか」

「それは分りません。一服さんは、ウチへきてお訊きになったから、分ったのです。さもなければ、かなり離れていますし、木立にさえぎられていますので、アトリエの様子は分らないのです。それに冬は、日が暮れると、雨戸をしめてしまいますから」