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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

一、しかし、来客に湯茶を接待した形跡はない。

一、被害者の指紋は諸方にあるが、ほかに特に注目すべき指紋は見当らない。

一、兇行時間は、警察医の検視によっては午後九時より十二時ごろまでの間とあり、尚正確には解剖にまつ筈である。

まだ夜の白々明けという時刻に、刑事は一服投手の寝込みを襲って、捜査本部へ連行した。また、名刺に書かれたアパートから、上野光子が連行されて来た。

二人の部屋は、それぞれ捜査したが、血のついた衣類や、紛失した札束は発見されなかった。

ほかに捜査本部で捜しているのは煙山と岩矢天狗であるが、まだ煙山の宿は、彼らに知られていないのである。

まず一服が取調べをうけた。

捜査の主任は京都にその人ありと知られた名探偵、居古井警部である。

「君は昨夜、大鹿君のところへ行きましたね」

「ええ。お午すぎ、一時ごろから、夜の九時ごろまで探してとうとう彼の隠れ家を突きとめたんですからね」

「夕飯もたべないで」

「それは食べましたよ」

「どうして、そうまでムリして探す必要があったんですか」

「一時も早く解決したい問題があったんです。ボクは上野光子にプロポーズしたんですが、お光は大鹿と結婚したいと云うんです。