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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

そして、それをゴマカス方法としては、大鹿が米原まで出迎えて、車中で契約書を交したという計略を用意しておいたのだ。ところがさ。あいにく契約書の署名がハッキリした楷書でね、停車中でなければ決して書けない書体だったのさ。米原に停車中には、先ず、署名の時間はない。なぜなら、大鹿が煙山を探す時間、一通りの事情を説明し聴取する時間が必要な筈で、ノッケから契約書を突きだすことは有り得ないからだ。ところがだね。米原を出発すると、あとは京都までノンストップなんだよ。私はこれに気がついた時、思わず笑ったね。快心の笑という奴さ、そして、ほぼ事件の全貌をとくことができた。第二ヒントは、上野光子が与えてくれたのだが、光子がアパートをアジトにしているように、煙山にもアジトがあるに相違ないということだ。すると第三ヒントの謎がとける。血だらけの着物がそのアジトに隠されているのだ。奪われた三百万円もアジトにあるのだ。散歩のフリして旅館から出た煙山は先ずアジトへ走り、衣服を着かえて、さらに嵐山へ急行した。着代えの衣類も持って行ったかも知れぬ。アトリエへつくや、出迎えた大鹿が、ふりむくところを、いきなり一刺し、メッタヤタラに突き刺して、それから、顔や手の血を洗い、金を奪い、衣服も着代えて、アジトへ戻った。