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ぬきうちししべえ

抜打ち獅子兵衛

山本 周五郎

「講談雑誌」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,930 字 · 24 页

青空文庫

里人が二本松と呼んでいる丘の蔭に、持輪寺という古寺がある。……日のとぼとぼ暮れに、例のぬきうち獅子兵衛と名乗る武士が、その山門をくぐった。

すると、待受けていたように、一人の若侍が出て来て、

「左内どの、妙泉院様がお召しでござる」

と云った。

「衣服を改めるに及ばず、そのままお目通りお許しとある」

「さようなれば……」

若者は静かにおじぎをした。

古びた客殿へあがると、そこにも三人ほどの若侍が詰めていた。みんな冷たい眼でじろりと見たが、左内と呼ばれた獅子兵衛は気付かぬふうで大剣を脱り、衣紋をつくろって奥の間へ仕候した。

その部屋には、土佐派の筆になる極彩色の屏風を背に切下げ髪にした四十あまりの婦人が、水晶の珠数を手にして上座に坐りその左手すこし下って赭顔の老武士が恭々しく控えていた。

「……お召しにより左内お目通り仕ります」

「近う、許します近う」

婦人は神経質に云った。

「呼んだのは訊ねたいことがあるのです。……左内、そのほうはこのみをどう思っていやる」

「……はああ」

「このみをどう思っていやるか申せ」

「恐入り奉る、……亡き殿但馬守様御後室、われら身にとり三世までの御主人様と存じ奉ります」