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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

になるほかは何一つ贅沢なものを手にお取りになるでもなく、却ってそのオセキ婆さんの方が、お母様のお作りになった絞りの横掛けや、金襴のお守り袋なぞを頂いて田舎で売って儲けていたとの事でした。夏なぞは御自分でお染めになった紺絞りの単衣を着ておられるのが、ツキヌクほど白いお顔の色や、襟足や、お身体の色とうつり合ってホントにお上品に見えました。ある時私に、おまんじゅうを焼いて上げようと仰言って、手拭をチョット姉さん冠りにして火鉢の前にお坐りになった、そのお姿のよかったこと、今に眼についております。

「あなたのお母様は絵のようだと申し上げたいが、絵よりもズウットズウットお美しい」

とある人は申しました。

「女でさえ惚れ惚れする」

と云って昆布売りの女が見かえり見かえり出て行ったこともあります。嘘か本当か存じませぬが、その頃の福岡の流行り歌に、

「みなさんみなさん、福岡博多で、釣り合いとれぬが何じゃいナ。トコトンヤレトンヤレナ。あれは井ノ口旦那と奥さん。中洲に(泣かずに)仲よく、暮すが不思議じゃないかいな。トコトンヤレトンヤレナア」

というのがあったと誰からか聞いておぼえておりますが、教えた人は忘れてしまいました。