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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

私の家は黒田藩のお馬廻り五百石の家柄で、お父様は御養子でしたが、昔気質の頑固一徹とよく物の本やお話にあります。あの通りのお方で、近まわりの若い人たちに漢学を教えておいでになりました。それに生れつきお酒がお嫌いで、大の甘党でおいでになりましたので、私が十歳にもなりました時は、よほど胃のお工合がわるく、保養のためといってよく畑いじりをしておいでになりましたが、そのせいかお顔の色が大変黒くて、眉毛の太い、お眼の切れ目の深い、お口の大きい、武士らしい怖い顔のお方で御座いました。

それに引きかえて私のお母様は世にも美しい、そうして不思議なお方でした。

私のお母様は、只、生きるためにしか、お食事をなされぬように見えました。よくまああれでお身体が保つものと、子供心にも思わせられました位小食でした。又お母様は、

「あの一軒屋に居りながら、いつの間に見て御座るのか」

と知り合いの人が感心しておりましたくらい髪なぞもチャンと流行風に結って、白いものなぞをチョッとかけておられましたが、それが又、飾り気がないままに譬えようもなく美しく見えました。そのお母様を育てました乳母で、オセキという元気な婆さんは、そのころ大きな段々重ねの桐の箱を背負うて、田舎まわりの小間物屋をしておりましたが、お母様はその婆さんから折々油や元結なぞをお買い