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しどうものがたり
指導物語
上田 広
或る国鉄機関士の述懐
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,687 字 · 35 页
佐川はいつもの顔色に戻って首を振り、とにかくここから帰らして貰います、と機関士席から立ちあがった。私が変に背筋に寒いものを感じながら、そりぁそうした方がいいが、もう一度ぐらい会えるだろうね、と別れを惜しんで云うと、そんなに早いこともないでしょう、と笑って見せ、私もあらためて挨拶にはあがりたいと思っていますが、と云うのであった。道具を持って機関車から降りた彼は、代って機関士席についた私を見あげ、お願いします、と云ったがそれにはもういつもに変りが見られなかった。
夕方私は機関区に帰って来て、実習派遣を停止されたのが佐川一人でないのを確めた。口の多い連中の中には、あんなに急いでいるんだから、事によると今夜あたり出発かも知れない、と云うものもあったが、それならそれでやむを得ない、そのような気持は、私にもあった。然し、私は当直の助役さんの部屋で、その夜も翌日も、一本の軍臨(臨時軍用列車)さえ運転されない事実を知った。助役さんにはしっかりしたところがわかっているかも知れないと思い、帰りがけにそれとなく訊いてもみたのだが、左程早急でもなさそうだという以外のことは判明しなかった。