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すいりしょうせつろん

推理小説論

坂口 安吾

「新潮 第四七巻第四号」1950(昭和25)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,385 字 · 15 页

青空文庫

トランクを東京駅へ運んだ友人には船酔いの薬と称して毒薬を与えて軽く片づけているあたり、末端に至るまで捌きが軽妙をきわめて快い。

一つ難を云えば、犯人の志賀が大阪のホテルに於て第二の殺人を犯したとき、アリバイをつくるために屍体を縄でよじって、よじれが戻って屍体が街路へ落ちるまでの時間に階下へ降りるトリックであるが、これは単に殺して何喰わぬ顔をしている方が無難で、いつ殺したか、その時間に誰がどこにいたか、殆ど分らなくなるはずである。却って、アリバイをつくろうとして妙に手のこんだ仕掛をするだけ、発見される危険が多いのである。仕掛の縄をあとで片づける危険だって大変だし、それらが人目につかない方が妙だ。

私がこれを指摘するのは蝶々にケチをつけるためではない。蝶々はこの程度のキズをおぎなって余りある華麗な相つぐトリックの妙味にあふれているのだ。

ただ日本の新人作家の作品には、このキズに類する不合理、トリックの不備があまりに目立ちすぎるからである。あまりに仕掛けを弄しすぎる、仕掛けを弄する必然性がなく、仕掛けを弄するだけ、それによって危険に身をさらしていることになるのだが、その計算を全然忘れている。