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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
扉は、いつ重吉のために開かれるであろうか。それは、ひろ子にとって生々しい切迫感であった。自分よりはるかに若いつや子にとって、待つべき人は永久に失われてしまっているという意識は、ひろ子の声を喉につまらせるのであった。
水が出て四日目に、二階での干しものは大体かたづいた。母親のセルをたたみながら、
「これであらかたすみましたのう」
すみましたというところにアクセントのつく地方の言葉で縫子が云った。
「夕方までに、わたし帰ります」
「そうする?」
ほんの一二泊のつもりで来た縫子は、水で足どめされたばかりか、窓をこえて逃げ出すときも荒っぽいあと片づけにも、力になりたすけてくれた。縫子をこの上はとめられなかった。
「わたしも一緒に行っちゃおうかな」
いくらかきまりの悪そうな子供っぽい眼つきをして、ひろ子が云い出した。ひろ子にそう感じさせる日々の空気があるのであった。
「そうおしませ! それがようあります。さわ子もどんなによろこぶかしれんし」
「ね、本当に行っちゃおう」
そんな話をしたのは午前中であった。昼飯につや子が上ってきて、干しものがとりこまれてあいている軒先の綱に目をとめた。