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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
そこでの一家の生活は、大水に根太ごと浮いた一軒の家に似ていた。水の流れにつれて、その家は、形をくずさず、微かにまわりながら流されていた。何かにぶつかって急に崩れるまでそれはどうやらそれとしての形を保ったまま流されていた。
家の裏を、象徴的な軍用道路につっきられ、生計も破壊された重吉の家で、明日というものはむこうから、昨日と同じようでいて違ったあれこれの心配ごとを運んで、けなげにそれに立ち向っている母とつや子の生活に押しかけて来るもののようである。
さわ子の机の居まわりには、廃墟の堆積物の間から咲き出ている一本のたんぽぽのような風情があった。それは本当に小さい、単純な存在だけれども、その単純さの完璧は、満目の荒廃の中にあって通りがかるものを優しく感動させ、いのちあるものへの信頼をよみがえらせる。
さわ子は、空襲のときでも、上空の音響をきいていて、母さん、きょうはここにいていいね、と云うような気立ての娘であった。おのずからの若さばかりでなく、彼女の若さには、伸びようとする一筋の押えがたいものがこめられていた。それは、知らず知らずのうちにさわ子の生きてゆく日々に一貫した生活のよろこびをそよがせているのであった。