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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
福島の田舎の家では、机はあってなかった。ひろ子は、そこにいて、毎日、北のことばかり考え、青函連絡船の恢復を待ち、網走へ、網走へ、とばかり思いつめていたから。その思いは、云わば膝の上に板一枚のせただけでも、あらわせるものだったし、更にその板を奪われても、なお書きつづけられるようなものなのであったから。
古びてラックもはげたさわ子の机のまわりにある雰囲気は、きょうはきのうから生れ、明日はきょうの中からぬけ出てそうして続いてゆくものであるという生活の真実をそのままうけとって生きている者の単純な落付きであった。
半歳の間、東京での生活はサイレンの音ごとに苦しく遑しく寸断されていた。どっちを向いてみてもひろ子の、内心をつらぬいて流れている未来へのつよい確信と、調和するものを見出せない苦悩があった。
福島の暮しでは、ひろ子の明日への感覚は、船へ乗れる日を待ちかねるこころもちと不可分に結びつけられて、前のめりになったきりであった。そのひろ子を一員として営なまれている生活で、小枝のまるい、成熟した女としての眼は、明日が来ざるを得ないことを知ってはいるが、その明日の意義は彼女にとって、何であろうかときかれれば、困惑におちいる表情をただよわせていた。