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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

治安維持法という壁の、どこの扉があく、ということが明らかになった瞬間、ひろ子は、火焔のうちに救い出されず、のこされそうになっている我子を呼ぶ母親の気持になった。重吉は? 重吉は? みんな出て来る。だが、重吉は?

しかし、ひろ子は狂乱する相手を目前にもたなかった。重吉の、かえがたく、いとしい命を滅ぼそうとしている焔は、誰の目にもその危険をまざまざ示す焔の色としては映っていないのである。

ひろ子は、その新聞を手にもったまま、のろのろと、いつもの机の前へ戻った。叔母も縫子も気の毒げに黙って、ちりぢりにわかれた。

小一時間ほどして、

「縫ちゃん、いる?」

坐ったところから呼ぶひろ子の声がした。

「はい、はい。何ぞ用でありますか」

「すまないけれど郵便局まで行って貰えるかしら」

二つの書留速達と赤インクで書いた封筒を出した。

「ともかく塚本さんと永田さんに、頼もうと思うの。様子によっては永田さんにあっち迄行って貰って、いい加減なことを、されないようにしなくちゃね。そう思うでしょう?」

塚本さんというのは、一家のみんなも親密な重吉の幼ななじみの親友であった。永田さんは弁護士で、永年煩雑な事務的な仕事をたゆまず取りはからってくれた。