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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
その心配に焦点さえ与えられない。絶対なそのへだたりの感覚さえ、遙かにぼやかされてしまっているはかない別離。ひろ子はその現実のむごたらしさを想うと耐えがたかった。そして、たとえその妻たちの留守居はまだ二三年であり、或は四五年であり、自分の独りぐらしは十余年であるにしろ、ひろ子は自身の苦痛において謙遜になった。
何かの意味で眠れない夜々をもたない女は、日本にいないのであった。
四日ばかりたった日、ひろ子をひとしお衝き動かす記事が出た。外人記者が府中刑務所の一部にこしらえられているナチスまがいの予防拘禁所へ行って、徳田球一、志賀義雄その他の思想犯と対談したニュースである。
ひろ子は、くりかえし、くりかえし、その記事をよんだ。冷静な報道のかげに、はやまり高まっている獄中の人々の鼓動が脈うっていた。大なる精力をもってほとばしる談話。殺されなかった人間性の奔流が感じられた。鉄格子の際の際までひしめき出てその間から外を見、待っている人間の群がある。その眼の光がある。ひろ子は、涙が流れて、とどまらなかった。
たしかにこれらの人々の声は、きこえはじめた。――だが、あの一つの声は? そして、遠くにあるあの眼は?